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音楽の冗談

音楽、美術、映画、演劇、文学などの有名アーティストや、偉大な才能を持つ無名なアーティストたちに焦点を当て、彼らの業績や人生を一風違った視点で掘り下げます。

夭逝したスコット・ラファロ伝


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プロローグ
高校1年生の時、まだJazzを聞き始めて間もない頃でしたが、オスカー・ピータソンの軽快な演奏に聴きなれた耳で、Bill Evansの名作「Explorations」の1曲目「イスラエル」をレコード針から聞いたとき、なんと美しいJAZZだろうと感銘した記憶が鮮明に残っています。特にベースがピアノ同様に「歌う」演奏スタイルは、ベースが奏でるメロディを口ずさむまで聴いても飽きませんでした。Evansと言えば、「Waltz for Debby」に最も人気が高いですが、私にとっては未だに「イスラエル」を超える演奏はありません。既にレコードは磨り減り、その後CDで演奏を聞き続けていますが、もし存在するならば、このRiverside盤の「イスラエル」のテイク2を聞いてみたいものです。


ビル・エバンスが最も輝いた時期
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1980年に享年51歳で他界したピアニスト、ビル・エバンス(1929年8月米国ニュージャージー州生まれ)は、現在でも日本で最も親しまれているジャズピアニストのひとりです。彼は100枚近いアルバムをリリース(死後新たに発表されたものもかなり多い)しましたが、その中でも最高傑作とされるのがスコット・ラファロという若いベーシストが参加した「リバーサイド4部作」と呼ばれる作品群です(リバーサイドとは当時のレコードレーベル名)。いずれのアルバムも1959年末から'61年初頭の約2年間に録音されましたが(内2枚はラファロの死の10日前、ニューヨーク・ヴィレッジバンガードにおけるライブ盤)、当時ビル・エバンスは30~32歳、スコットは23~25歳という若さでした。
ビル・エバンスは30年近いピアニストとしての活躍期間のなかで、トリオのメンバーチェンジなど年を経るに従って演奏スタイルや曲の解釈が徐々に変化していきましたが、スコット・ラファロが在籍したリバーサイド時代が彼の演奏スタイルを確立した時期でもあり、最高傑作と言われるアルバムの録音された時期でもあります。


25歳で夭逝したスコット・ラファロ
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では、未だにスコット・ラファロがビル・エバンスの作品のなかで語られ、ラファロ以降のエバンスの演奏と一線を画して評価される理由はなにか、ベーシスト側に焦点を当ててビル・エバンス・トリオのリバーサイド時代の演奏を紹介します。スコット・ラファロは'57年に初レコーディングし、有名なジャズ雑誌ダウンビート誌で'59年に新人賞を受賞、そして交通事故による若干25歳で他界するまで、ベーシストとしての活動はたったの4年間でした。しかも本人によるリーダーアルバムは1枚もなく、記録に残っている参加アルバムも10数枚しかありません。また、エバンスのアルバムを除いてはラファロの本領を最大限に発揮したと言えるアルバムは少なく、勢いエバンスとの4部作が際だってラファロの本質のみならず、エバンスの最高の演奏を引き出しています。 ラファロのベーシストとしての演奏を簡潔に言い表すと、ジャズにおいてリズムパートを中心に主演奏者(ピアノやサキソフォンなど)の引き立て役を演じていたベースの役割を、対等な別のソリストのように主演奏者とインタープレイ(エバンスの演奏ではよく表現される言葉で、つまりプレイヤー同士が互いに演奏における主従にこだわらず掛け合いのように協調演奏していく)している点が大きな特徴です。実際4部作では、エバンス、ラファロ、そしてドラムのポール・モチアンが3人同時にお互いソロ演奏しているように聞こえながらも完全に調和しているパートがよく聞かれます。
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エバンスの代表曲である“ワルツ・フォー・デビー”のヴィレッジバンガードにおける3人のプレイはそのいい例ですが、特に個人的にはアルバム「エクスプロレーションズ」の1曲目“イスラエル”における完璧なインタープレイに3人の内に秘めた凄さを感じます。また、エバンス自身もトリオの演奏形態に関して次のようにインタビューに答えています。「例えば、ベーシストにあるアイデアが湧いたとき、黙って4ビートの演奏を続ける必要はない。わたしがともにプレイしたいと思う人たちはすでに基礎的な演奏は修得しているから、従来の演奏形態を変える資格はあると思う。」


ラファロの演奏手法


次にラファロの演奏手法について可能な限り言葉で紹介してみたいと思います。(興味を持たれた方は、アルバム『ワルツ・フォー・デビー』を聴いてみて下さい。) 4部作におけるラファロのベース音はエバンスのバックにおいてもかなり速く指を動かして、細かい音を出しているのがわかります。特にソロパートでは派手で複雑な弾き方をしていますが、常に演奏がスイングしています。つまり彼はベースを用いて、ピアノと絡みながら曲を「歌って」いるのです。そしてその「歌」はいい意味でピアノと会話するようにお互いに刺激し合っています。またラファロの演奏法は底音域から高音域まで自由奔放に指を操り、しかも緩急自在にベースプレイを変化させています。時にはピアノとともに高音域でメロディを奏でたり、当時のベース本来の弾き方と明らかに一線を画していました。そういう意味でジャズ史上ベースの持つ楽器の表現力を大いに拡大させた功労者と言えます。このあたりが特にビル・エバンスがラファロを最良のベーシストととらえていた大きな理由で、トリオの演奏で3人が「歌う」ことの重要性をエバンスはインタビューで再三強調しています。


最後に、ラファロが事故で亡くなった後、エバンスは精神的なショックからしばらく演奏活動を行わず、翌'62年にスタジオでピアノソロを録音した時には4曲目を弾き終えたところで演奏を中断してしまい、作品は結局お蔵入りになってしまったというエピソードが残っています(現在このレコーディングはCD化されています)。エバンスにとってもラファロほどのベーシストはその後現われていませんが、彼の奏法は多くのベーシストに影響を与え、エバンスがトリオで組むベーシストは常にインタープレイがうまいプレイヤーでした。


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コメント

Mozartantさん、トラックバックありがとうございます。

ビル・エバンスの”ワルツ・フォー・デビー”、聞いてみたくなりました。それから"イスラエル”も。ベースがただ単に、メトロノームの役割ではなく、即興的にピアノに絡んでくる感じがきっと絶妙なんでしょうね。

私はJAZZの基礎知識すらありませんので、自分が好きなものだけ、気の向くままに聞いています。

横浜で毎年、10月ごろに「ジャズ・プロムナード」というのをやっており、10年位前に色々なライブハウスを巡ったことがありました。やっぱり、4人ぐらいの(ギター・ピアノ・ベース・ドラム)セッションが、楽しくて良かったです。観客とミュージシャンが一体となって、盛り上がっていく感じはたまりませんね。
2005/10/01(土) 05:17:13 | URL | Koaniani #-[ 編集]
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